林業×LNT:山人からアウトドア産業への言霊

スピーカー:原薫(柳沢林業株式会社)齋藤理(鳴子もりたびの会)
モデレーター:岡村泰斗(backcountry classroom Inc.)

リーブノートレイスジャパンは、環境へのインパクトを最小限にしたアウトドアレクリエーションの教育と普及のために、2021年に設立しました。LNTは、主として、アウトドアに訪れるビジターや、その機会を提供するアウトドアプロバイダーやキャンプ場など、自然環境を活用したサービス業(三次産業)を対象とした概念であり、林業、農業、漁業など自然界に働きかけて富を生む一次産業を対象としておらず、同じ土地利用における大きなギャップを生んできました。一方で、一次産業事業者の中でも、独自のコンテクストで、持続可能な一次産業のあり方を模索する動きも起こっています。このワークショップでは、林業を営む新進気鋭の2団体に登壇していただき、これらからの林業のあり方とLNTの親和性、林業の目に映る今日のアウトド産業に対して提言します。

柳沢林業は、長野県松本市で操業する林業会社で、木材の生産、森林整備を事業とする傍ら、馬搬、馬耕などを取り入れた里山の再生や、山の恵みとしての水と米を使いきこりが醸した酒造り、自然の素材感を生かした木製品加工、豊富な薪や林業体験を提供するキャンプ場運営飲食業などを手がけることにより、林業を通じた、里山の再生、新たなライフスタイルの提案をおこなっています。

鳴子もりたびの会は、鳴子温泉の一角にある川渡温泉の水源となるエコラの森を拠点とし、木材の生産、建材の加工、家具の製造を行い、一連の工程で生じる木材のバイオマス燃料による循環型ビレッジを提案しています。同会は、これらの循環型ビレッジを教材としてビジターに対して環境教育、自然体験を提供しています。

 いずれの団体も木材を余すことなく活かしきるカスケード利用を目指す一方で、山へのインパクトを最小限にした木材の生産や地域特性にあった山づくりを実践するなど、これまでにない林業の構造の変革にチャレンジしています。また、消費者が人間中心の価値観を維持する限り、自然界の自然(じねん)を歪めざるを得ず、一次産業がその犠牲を払っている現実を訴えます。人間生活が、より自然中心となり、あるがままの自然を受け入れるライフスタイルが、一次産業の経済効率を上げ、環境への負荷の低減になります。消費者の価値観の醸成に、一次産業が果たせる役割には限界があります。自然との媒介者となり、消費者に自然との関わり方を伝える、アウトドア産業が、人間中心のスタイルを自然の中に持ち込むのではなく、あるがままの自然を受け入れる自然中心の価値観への転換を進めていただけることを期待します。